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2007.09.11

愚問を以てす


2007/9/10の毎日新聞夕刊(東京)の特集面「どうみる「武道必修化」 伝統・文化の尊重!?/愛国心の養成!?」で、内田樹の文章を読む。うっ、先日小林秀雄を受賞したと思ったら、知らぬ間に「思想家」という肩書きになっていた。武術をやってて、面白い身体論や、ある人に言わせると誑かす文章(小林秀雄から延々と続いている「日本のフランス文学者」のお家芸とか)で、たまに読むとついつい肯いてしまう。

昔読んだエントリ「師恩に報いるに愚問を以てす」(2005/5/4)は特に印象深かった。
(一部略して引用)
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多田先生がしてくださったお話の中にはいくつも印象深いものがある。
その中のひとつは、古武道大会の「控え室」での逸話である。
ある武術の演武者が臨席の見知らぬ演武者に「あなたの流派では、手をつかまれたときに、どのように応じるのですか?」と尋ねた。
訊かれた演武者はにこやかに片手を差し出して、「では、この手をつかんでごらんなさい」と言った。
問いを発した演武者は、その差し出された手の小指をつかんでぽきりと折った。
話はそれでおしまいである。
多田先生はこれについてただ一言「これは折られた方が悪い」とおっしゃった。
私はこの挿話の教訓についてずいぶん長い間考えた。
そして、私が暫定的に得た教訓は、「楽屋」を「武道的な原理が支配しない、常識的=日常的な空間」であると思いなす人間は武道家としての心得が足りないということであった。
「楽屋」はある意味で「舞台」以上にタイトな空間である。
道場で十分な気配りができない人間、道場に入るときになしうる限りの備えを怠る人間は、「本舞台」においても使いものにならない。
そのことは「理屈」ではわかっていた。
だから、その逸話をいくつかの書物で引用しておきがら、私は先生がおっしゃったことの意味を実践的には少しもわかってはいなかったのである。
そのような自明のことを三十年来門下にある知命を半ば過ぎた弟子にまた繰り返し告げなければならない師の胸中を察して、私は足が震えたのである。
知命を過ぎてなお叱正して下さる師がいるという身に余る幸運に足が震えたのである。

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狂言の師範稽古でも、うちの会では紋付で稽古とか、台本は筆で筆写とまでは行かないが、先生の貴重な時間を貰って稽古をつけてもらうという心構えではいるつもりだ。台詞の稽古だけとか、謡がないとか、ある程度やることは読めるのだが、いつ何時どんな稽古に振り変わってもいいように謡本と扇、足袋だけは携帯する。

普段から気配りをしていないと、いざという時に対応できないと言うのはこのことなのだろうと思う。

それと更に深く感じ入るのが、「知命を過ぎてなお叱正して下さる師がいるという身に余る幸運に足が震えたのである。」。

万酔会の先輩方も良く口にするのが「日常ではもう誰も叱ってくれる人は居ない。唯一稽古の場では、先生が必死になって叱り励まし指導してくれる。何と幸せなことか」と。

☆ ★ ☆

で、今回の武道必修のコメント。きっと、彼のサイトに新聞寄稿の文章より詳しいものがあると踏んで、久々に覗いてみた。あった。

「武道の必修化は必要なのか?」(2007/9/6)

陸軍幹部が合気道を軍事教練の一環にしようと開祖・植芝盛平に依頼したとき、開祖が激怒して、「それは日本人全員を鬼にするということである」と一喝して、そのまま東京を去って、岩間に隠遁したという逸話は初めて知った。

また、講道館の嘉納治五郎師範(恥ずかしながら、拙者も高校の時初段を貰いました)が、「学校体育における武道の堕落」という文章を書かれていたというのも、この文章を読んで知った。五輪競技に柔道を入れるためにスポーツとしてのJUDOというものに割り切っていたと思っていたので、同じ師範が学校教育に武道を組み込むときの悩みをもっていたとは。。。

今回の内田樹の意見にはやはり肯くしかない。

☆ ★ ☆

師範の原文を読みたいのだが、講道館のサイトには見つけられなかった(「精力善用」「自他共栄」しか見当たらない。。。。)。せめて、開祖の文献リスト位は表示してもらいたい。


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